「蔵王文学のみち」がいよいよ整備され、歌碑二十基が完成、茂吉の歌二十一首を味わいながらたどることが出来き、その周辺にもいくつかの茂吉歌碑が建立された。
掲載した歌は昭和二十年夏、郷里金瓶に疎開中の作で、斎藤茂吉全集第四巻「短歌拾遺」から選ばれ、松尾山観音堂境内に歌碑として建立された。「蔵王文学のみち」周辺の茂吉歌碑の一つである。
茂吉と言えば「赤」のイメージが際立って強く、実際多く歌にしている。しかし、「白」も負けていない。「白き鯉」の歌だけでも五、六首を数えるし、茂吉記念館の周囲に咲き盛る沙羅雙樹の白い花なども好んで歌にしている。比叡山上での作に
山のあらし一夜(ひとよ)ふきつつ砂のへに白く落ちたる沙羅雙樹のはな 「白桃」昭和八年
がある。白い狐、白蛇などに自然の仏性、神性などがこもるように、白き鯉や白い花に、茂吉はそれを感じていたのかも知れない。
山の池に人に懐(なつ)かず棲む鯉ら白き鯉まじり今日は穏やか 六月再訪松尾山観音堂
あしひきの山の池なる白き鯉われの心はけふは和ぎなむ
斎藤茂吉「拾遺」昭和二十年